
山形のだんご文化を代表する名店を訪れ、
大石田そば街道をめぐる
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米処・山形県には古くからだんごを愛する文化があり、今なお各地にだんご店が残る。
その中でも山形新幹線大石田駅にある「最上川千本だんご」でだんごに舌鼓を打ち、さらに、山形三大そば街道の一つ、大石田そば街道をめぐって打ちたての香り豊かなそばを堪能しよう。
記事制作
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賞味期限は一日。
出来たてをすぐに味わうだんご

大石田駅の駅舎。なんと駅舎の屋根に座れるようになっている。市民の憩いの場だ。
山形県の北東に位置し、南北を最上川が貫く大石田町は、その地の利のよさもあり、古くから舟運の重要地点として栄えてきた。現在は名湯・銀山温泉への玄関口としても知られ、大石田駅には外国人客の姿も。
駅から外へ出て振り返れば、駅舎の上部全体が観覧席のようになっているのに気がついた。不思議に思い町の人に尋ねると、「ふだんは子どもたちの遊び場になっていますけど、毎年8月の最上川花火大会のときにはここが特等席になるんですよ」とのこと。そんな遊び心にもなんだか親近感が湧く。

左は「最上川千本だんご」の季節メニューの春いちご(イートイン限定)460円。あんこでサンドしただんごの上に生クリームといちごがのる。見た目の迫力に反して軽やかなおいしさ。3月下旬からは生クリームの代わりにマスカルポーネチーズを使う。右は焼きみそバター(イートイン限定)380円。炙っただんごと甘じょっぱい味噌あんに、バターがとろける。年間を通してメニューは35種類あり、定番6種のほかは季節で入れ替わる。
米処として名高い山形県では、各地域で昔からだんごや餅に親しんできた。かつては最上川沿いにも、だんごを提供する茶屋のような店があり、家庭でも頻繁につくられていたという。そんな、だんご文化が根づく土地で圧倒的な人気を誇るのが「最上川千本だんご」だ。もともとは豆腐店で、ご近所さんが家でだんごや餅をつくるために持ち込んだうるち米やもち米を、大豆を加熱した後の残りの蒸気で蒸す作業を代行していたのだそう。だんごづくりが上手だった店主のお母さんのつくり方をベースに店でもだんごを提供し始め、催事などを通じて瞬く間に人気が広がった。春〜秋の繁忙期には千本どころか一日5,000〜6,000本も売れるというだんごは、まるで赤ちゃんのほっぺたのような柔らかさ。たっぷりとたれがからんでいても、お米のおいしさがストレートに伝わってくる。翌日にはすぐ硬くなってしまうので、お店で出来たてをすぐに味わうのがお薦めだ。

「最上川千本だんご」は最上川沿い。春は桜も美しく、繁忙期は店をぐるりと取り囲むほどの列となることも。店の奥には歴史ある蔵が残され、イートインスペースとして利用できる。店内では大豆の味が濃い豆腐や厚揚げも販売。

県産米の“はえぬき”を二度蒸してから6〜7回ついて仕上げるだんごは、とろける柔らかさ。添加物などを一切加えないので翌日には硬くなってしまう。持ち帰りも可能だが、当日中に食べ切ろう。一番人気は地元産の大豆“秘伝豆”の枝豆を使ったずんだんだんご、二番人気は和胡桃に豆腐を合わせたなめらかなたれが自慢のくるみだんご(ともにイートイン214円、持ち帰り210円)。だんごもたれもボリュームがあり、味つけもしっかりしているので食べごたえ満点。おやつなら一本、3本食べれば十分食事になる。

「一本からお気軽にどうぞ」と「最上川千本だんご」の代表取締役・五十嵐智志さん(中央)とスタッフの皆さん。奥の工房では常に蒸気が上がり、次々とだんごが生まれていた。
最上川千本だんご
住所 | 山形県北村山郡大石田町 大字大石田乙76 |
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電話番号 | 0237-35-2312 |
営業時間 | 9:00-16:30(売り切れ仕舞い) |
定休日 | 年始 ほか年に3回の休業日あり |
アクセス | 山形新幹線大石田駅より 徒歩約15分、または車で約5分 |
東北の厳しい寒暖差が育んだ、
香り高い地そばを味わう

地元でそばの里として知られる次年子(じねんご)の山間部に店を構える「七兵衛そば」。田舎のおばあちゃんちへ遊びに行ったような佇まい。
この地で食べ逃してはいけない美味がもう一つ。打ちたてのそばだ。大石田一帯はそばの産地として名を馳せている。夏と冬、昼夜の寒暖差が激しい気候は、人間にとっては時に厳しいこともあるが、そばの栽培には適しているのだという。昔から家庭でも客人が訪れるとそばを打ち、飲んだ後などに振る舞っていた。そこから暖簾を掲げ店として営業を始めたところも多く、現在は“大石田そば街道”として駅周辺や山間部の次年子地域を中心に15軒のそば店が加盟し、個性と腕を競い合っている。
香り高い在来種の“来迎寺(らいこうじ)”や、次年子の地そばを使ったそばは香り高く、しなやかなコシが身上。訪れた「七兵衛そば」は、大根の搾り汁でつゆを割って食べるスタイルで、そばはなんと食べ放題。田舎そばの素朴な風合いながら、どこか上品な味わいを感じさせる逸品だった。
北国ならではの実りが育んだ、だんごにそば。温泉でさっぱりと汗を流した後に味わうもよし。くれぐれもお腹を空かせて行くことを忘れずに。

メニューはそば食べ放題1,500円のみ(小学生は1,000円)。初めに山菜や漬物などの突き出しが3皿供される。この日は昆布の煮物ときくらげの辛子醤油、わらびの一本漬け。つまみながら待っているとそばが登場。そば猪口には大根の搾り汁が入っていて、つゆを加えて好みの塩梅にし、そばを啜る。そば一杯でもなかなかの量だが、これが食べ放題。食べ終わる頃にお代わりをするか確認してくれる。半盛りも可能。

来迎寺在来の玄そばを使い、つなぎが一割の九一で打ったそばは、湯ごねした生地と水ごねした生地を練り合わせるという独特の打ち方。「昔の母ちゃんのやり方」を踏襲する。啜れば大根の搾り汁のピリッとした辛味が鼻に抜け、噛みしめるとそばの香りと甘みが追いかけてくる。これまでの最高記録は13杯だそうだ。

車でないとたどり着けない山深い里に、昼ともなれば次々と客が訪れる。客層は地元の人から観光客まで幅広い。BGMはトントントンとリズミカルにそばを切る音。

「七兵衛そば」の店主・井上一義さん。現在、大石田そば街道の店で大根の搾り汁を供する店は他にないそうだが、「この辺りじゃ、昔からうどんやそばは大根の搾り汁で食べていたんですよ」とのこと。開店当初は食べ放題ではなく、訪れる客たちに先代が「わざわざ山中まで来てくれたのだから好きなだけお代わりしなさい」と薦めたことから、この形式に落ち着いたそうだ。

七兵衛そば
住所 | 山形県北村山郡大石田町次年子266 |
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電話番号 | 0237-35-4098 |
営業時間 | 11:00-15:00(売り切れ仕舞い) |
定休日 | 木曜(冬季は金土日祝のみ営業) |
アクセス | 山形新幹線大石田駅より車で約20分 |
※支店の東根店では食べ放題をやっていないのでご注意を。
文:鹿野真砂美 撮影:山田 薫